ラボシェアリング

自由度の高い研究費用を大学の研究室が独自で持つ意味

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introduction

大学研究室に企業研究者が訪れて研究を行う「ラボシェア」。「受け入れを行う大学の研究室側にとっても社会人の研究員が来てくれることは教育的にも大きな意義がある」と話すのは成蹊大学理学部の戸谷希一郎教授です。戸谷研究室は「糖鎖」の分野で研究を進める化学系の研究室です。戸谷希一郎教授にラボシェアを活用したきっかけや効果について聞きました。

応用化学で糖鎖の研究を行う成蹊大、戸谷研究室

――まず、戸谷先生の研究室について教えてください。

戸谷希一郎教授:私は慶應大学の理工学部応用化学科で、糖の研究からキャリアをスタートしました。博士課程で理化学研究所にお声がけをいただいて、糖の立体制御について基礎化学研究員に従事します。その後、2008年から成蹊大学に在籍しています。 私が研究するのは「糖鎖」です。糖鎖とは色々な糖の分子が鎖状に繋がったもので、私たちの体を形成しているタンパク質や細胞の表面に産毛のようにして存在しています。タンパク質は細胞の中で形成され、細胞の機能はほとんどタンパク質がコントロールしています。その舵取りをしているのが糖鎖です。糖鎖の舵取りが間違ってしまうと不良品タンパク質が増えて、脳に溜まればアルツハイマー病やパーキンソン病になったりします。糖尿病や骨粗しょう症なども同じように不良品タンパク質を捨てられずに発症する病気です。人間の体は実はあまり性能が良くなく、健康な人でも常に3割位は不良なタンパク質が出るもの。この糖鎖の動きを正しく導くことができれば予防医療や根本治療ができる可能性を秘めています。

糖鎖の分岐によって不良品タンパクになるか否かが決まる

また、それだけでなくあらゆる場面で「糖」の研究はニーズが高まっています。例えば、近年着目されるSDGsの文脈で「バイオ燃料」が着目されていますが、植物が持つセルロースからバイオエタノールを生成したりします。また、石油を用いたプラスチックの使用量をへらすべく、セルロースを用いたナノファイバーの研究など医薬やエネルギーなどさまざまな用途で期待をされています。日本は「糖」の分野での研究は秀でているのです。

糖鎖の分野で安定的に研究を行うために

――研究における課題感や今直面している問題についてもお聞かせください。

戸谷教授:糖鎖はちょっとした分岐の1つの枝がなかったりすると、全く運命が変わってしまいます。しっかり識別したり作り分けて糖鎖を研究するには「化学合成」が欠かせません。タンパク質や核酸の研究では遺伝子工学が進んでいますから、研究サンプルの入手が容易です。戸谷研究室では鶏卵から糖鎖を作り出す研究などもしていますが、どうしても少量しかないものは化学合成するしかなかったりするのです。

私は理研に在籍している頃にターゲットにしているタンパク質上の糖鎖はすべて全種類作り出したりもしました。一方で糖鎖の研究をするためには化学合成で糖鎖を得なければいけません。糖鎖の研究なのに糖鎖が使われていない現状があり、合成化学者と生物研究者のコラボレーションの難しさがあると思っています。そこで、使ってもらいやすいような糖鎖を市販するプロジェクトを企業と一緒に始めました。これは同時に後進の研究者が糖鎖の研究を行いやすくする意味もあります。研究を促進させるために安定的に糖鎖の供給ができるような体制づくりを目指して、企業と共同研究をスタートさせたので外部企業とのコラボレーションにはとても興味を持っていました。 その流れの一つとしてCo-LABO MAKERから「ラボシェア」の依頼を受けて実際にやってみることにしました。

大学の研究室に社会人研究員がいる意義

――実際にCo-LABO MAKERのラボシェアを受け入れていただき、どのような感想を持ちましたか?

戸谷教授:企業の社会人研究員が大学の研究室に居ることの意義は大きいと思っています。これまでいくつかの企業様から研究員を受け入れたのですが、実際に実験や測定を行う過程でコミュニケーションが生まれます。学生時代の経験をもとにアドバイスをしてくれたりとメンターとして有り難い存在になっていたりします。

最初は大学として技術流出が課題となり難しいと思ったのですが、それも杞憂でしたね。きちんとした社会人の方を Co-LABO MAKERさんではご紹介頂けたのでとても安心しました。 Co-LABO MAKER は産官学の連携を考えたときに非常に良い仕組みだと思っています。企業側としても消防法の関係で少量危険物の貯蔵庫を持てなかったりする事業があります。大学はすでに少量危険物の貯蔵庫を持っていますから、その点も活用していただくのは良いと思っています。

自由度が高い費用を研究室が得ること

――ほかにCo-LABO MAKERを活用して得られたメリットがありましたら、教えてください。

戸谷教授:「用途が自由な研究費用を持つ」という研究費用の面でもCo-LABO MAKERのラボシェアによるマッチングは有り難いと思っています。どうしても、大学からの研究費用は次年度への繰越ができなかったり、用途が決まっていたりします。研究室で使う試薬や材料は各研究室で使用する分を共同購入していたりしますが、どうしても持ち出しが発生していまいます。毎年4月には数百万円単位の出費があると決まっていたりと、頭痛の種になっています。昨今の資材高や原料高の影響を受けて、更にコストは高くなるかもしれないという懸念を持っています。

また、書籍やジャーナルなどのデーターベースにアクセスする費用も年々値上がりしています。大学も研究費は無尽蔵ではありませんから、いつかコストカットの対象になるかもしれないと思っています。そんなときに研究室もこういったCo-LABO MAKERなどを活用して、自由度が高い研究費用を持っておくことは意味があることではないかと感じています。 Co-LABO MAKERのラボシェアを行ってみると、その仕組みやシェアリングで得られる相乗効果は確実にあります。特に中堅規模の私立大学では研究費も得られつつ、外部の研究者と信頼関係を築けるのは大きいと思います。それに私は研究員でなくても業界に係わる人は研究を支えてくれるメンバーの一人だと思っています。そうやって研究の裾野が広がっていくと良いと思っています。

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