イベントレポート

“共同研究”ではない!? 速く楽に開発が進む、大学との付き合い方とは 〜︎半導体研究の第一人者も実践する、新しい産学連携の形〜

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“共同研究”ではない!? 速く楽に開発が進む、大学との付き合い方とは 〜︎半導体研究の第一人者も実践する、新しい産学連携の形〜

introduction

「大学との共同研究は時間がかかりすぎる」と苦労した経験や、「社外連携は手間がかかりそうだから」と避けてきた企業も多いのではないでしょうか。企業は大学を研究開発に使うことで、ビジネスチャンスをつかめる。大学も企業を受け入れることで、研究や教育に新しい風を吹き込むことができるはずです。新しい産学連携の形について江端新吾・東京工業大学企画本部戦略的経営室 教授と、堀邊英夫・大阪公立大大学院工学研究科教授、Co-LABO MAKERの古谷が語りました。

この記事はイベント「“共同研究”ではない!? 速く楽に開発が進む、大学との付き合い方とは ~︎半導体研究の第一人者も実践する、新しい産学連携の形~」の模様をレポートいたします。
※リンクhttps://co-labo-maker-240409.peatix.com/

国の大学経営改革の指針に「設備共用化」

まず登壇したのが東京⼯業⼤学総括理事・副学⻑特別補佐/企画本部戦略的経営室教授の江端新吾教授。東工大での大学経営戦略を練りながら、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局や科学技術政策フェローを務めています。

江端教授はもともと宇宙科学の分析化学を研究テーマにしており、はやぶさのリターンサンプルも分析した大型の同位体分析顕微鏡などを扱っていたとのこと。実際に研究現場で機器も扱っていた経験から、北海道大学で大学の経営改革や研究戦略基盤にも携わるようになったそうです。

江端教授は「大学、特に研究を通じて世の中をより良くしていきたい。そのために、大学経営改革が必要であり、人事制度や組織マネジメントを変えていくこと。そして、科学技術イノベーション政策を本当に大学にとっても良いものにする取り組みを行っています」と語りました。

さらに、研究者同士のコミュニティ構築のため、江端教授は一般社団法人研究基盤協議会を立ち上げ、「研究基盤EXPO」を行い、現場の声や大学執行部の声を政策企画立案する国の立場の人たちにも繋がるような活動に取り組んでいると言います。

江端教授は国が掲げる大学の研究設備・機器の共用化ガイドラインを挙げてポイントを解説しました。「今までは各研究者が個人的に研究基盤の整備を行っていました。ですが、研究者自身が設備機器の維持管理にあたったり、共用の仕組み等を整えたりするのは非効率的と言わざるを得ません。そこで、大学全体で戦略的にどう進めるかが重要です」と語っています。

大学改革における経営にも触れ、「大学も収入を上げられる仕組みを作る必要があります。そのなかではモノや人に積極的に投資することも行わないといけません。研究機器の共用化と、それにまつわるデータの取得や利活用による研究DX、そして技術職員の活躍も視野にいれるべきです。国としてもこの領域に投資していく流れになっています」と話しました。

さらに江端教授が重きを置くのが「人材開発」です。「研究基盤が機能するためには、それに関わる人材が高度な技術を持ち、知識とノウハウを駆使して活躍する循環が必要です。そのための人材育成システムとして、東工大では高度な技術職員を育成する『TCカレッジ』も立ち上げました。『高い技術力と幅広い知識』『高い企画研究力』『高いコミュニケーション力、交渉力』『次世代後継者育成力』を観点に育成していきます」と語りました。

そして、最後に現在「国が研究基盤をマネジメントするなかで、『国がやるべきこと』と『民間企業がやるべきこと』を明確にするのが議論の流れ」とし、「研究基盤は英知を結集する創造の場。現状の課題の把握分析をした上で、創造の場に多くの方が参加してもらえるような仕組みに出来れば」と展望を語りました。

日本で半導体を作るために共同研究を

続くセッションでは大阪公立大の堀邊英夫教授が登壇しました。堀邊教授は三菱電機からキャリアをスタートさせて、半導体における感光性高分子であるレジスト材料の設計や開発に従事してきました。2000年代前半には韓国で韓国サムスン電子と共同研究を行った後、三菱電機を退職後は国立高専、私立大学でも教鞭を取り、2013年から大阪市立大学に移り研究を行っています。

そこで、堀邊教授が示したのが国立高専、私立大学、及び大阪市立大学時代に行った外部資金の獲得データです。10年間で1億1800万円の競争的資金を得ており年間平均1200万円になり、最も多いのが企業から得た資金です。大阪市立大学時代に全学の所長をやっていた時に調べたデータでは、1社平均120万円ということでした。また、堀邊教授がこれまで行ってきた共同研究の形はCo-LABO MAKERの「ラボシェアリング」にかなり近い、つまり大学研究室に企業研究者が訪問して研究活動を行う設備共用の形であったことにも触れています。

そして、「大学の研究者は一国一城の主なので、共同研究は研究室によってばらつきがあり、学生を複数もつけて行う研究室もあれば、従来の自分の研究だけ行う研究室もある。企業で年間一人雇えば2千万必要であり、120万円で大きな成果が出れば安いものだ。よって、複数人の学生をつけるのもやりすぎであり、従来と同じ自分の研究だけも良くない。1人ぐらいの学生をつけて行うのがちょうど良いのではないか。また、研究資金獲得や研究活動のマネジメントを行うURA(リサーチ・アドミニストレーター)という第3の職種に対して待遇を改善していく必要がある」と指摘しました。

その上で堀邊教授の話は半導体に及びます。「80年代~90年代は日本製半導体の黄金期であった。しかし、日米貿易摩擦による半導体協定もあり日本のシェアは落ちていきます。そして、アジア・パシフィックのファンドリーメーカーが躍進していきました。半導体はパソコン、携帯電話、デジタル家電、今後はAIにも活用されていき、これから半導体のない世界は有り得ません。地政学の点もあり、日本は半導体を自国で作れない限り、今後『日本』という国を継続するのは難しいのではないかと危惧しています。

現状では半導体人材は年配の経験者が転職市場におり採用できていますが、今後半導体人材育成は大学が担っていくべきですし、産業界からもそれを請われています。私自身は半導体用レジストは専門ですが、半導体製造には非常に多岐なプロセスがありそれを網羅するためには各大学の教員を結集していく必要があり、文科省、経産省と連携して、学生の単位認定までもっていくことも必要があると思います」と語りました。

最後に堀邊教授は稲盛和夫氏の「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という言葉を引用しながら「2030年に半導体市場が1兆ドルになると予想されるなか、日本では3次元集積や後工程が重要になると思います。日本は装置と材料は世界トップですから、半導体でも巻き返す最後のチャンスだ」と語りました。

堀邊教授の行う共同研究の形は「ラボシェアリング」に近い

続けて、Co-LABO MAKERの古谷も登壇し「新しい産学連携の形」としてのラボシェアリングについて言及をしました。Co-LABO MAKERのラボシェアリングは、「実験や試験を行いたいけれど、設備を持っていなかったり設備投資に躊躇していたりする企業」と「設備や機材の稼働に空きがある、または外部連携を求めている研究室」をマッチングするものです。企業は設備投資をするよりもはるかに早く廉価で実験ができ、研究室は設備を活用して研究資金を得ることができる。これは日本の科学技術発展に大いに貢献する、三方よしの産学連携の形である、と説明しました。

さらに実際に私立大学の研究室で、Co-LABO MAKERを通じて企業研究者を受け入れている事例についても言及。「大学が企業の共同研究を受け入れることは、何よりも学生の教育効果が大きい。身近なメンターとして社会人研究員が研究室にいると学生も相談しやすい。実際に学生がその企業に就職し、共同研究が続いているパターンもある」と話しました。

古谷は「ラボシェアリングや設備共用の仕組みは、国も推奨しており、実際に大学の研究室でも受け入れがなされている。大阪公立大学堀邊教授の行っている共同研究の形は実質的にCo-LABO MAKERのラボシェアリングと同義です。このような取り組みがもっと広まっていくことが重要。Co-LABO MAKERはラボシェアリングという仕組みを通じて、再び日本をイノベーションが起こる国にしていきたい」と述べました。

楽に早く開発が進む、これからの共同研究とは

パネルディスカッションでは江端教授堀邊教授に加え、某大手化学メーカーの吉田さんCo-LABO MAKERの古谷も登壇。大学研究者・大学経営企画・企業研究者・産学連携の架け橋となる企業、その4者の立場から、これからの共同研究のあり方について議論が進みました。

ディスカッションの冒頭、吉田さんは「私、普段は素材の会社でオープンイノベーションを中心に事業開発に携わっています。大学の修士では理学の分野で、半導体開発も行う会社で新しい素材の開発なども行って現在に至っています。企業の立場での共同研究、コラボレーションについて話したい」と自己紹介を行いました。

古谷から堀邊教授に「設備共用の在り方」について質問が及ぶと、「企業の方には若手の人に実験室に来て下さいと言っています。企業の若手と学生がディスカッションしながら実験を行ったり、飲みに行ったりすると、学生は『社会はこんなところ』と分かります。教育効果を期待している」と話しました。

江端教授も「堀邊先生のような前向きな先生がいると設備共用は進みやすくなる。協力ができるカウンターになる組織を整えていけるとより良い。国立大学には教育機関としての側面が長かったので『お金を稼ぐ』という点に関しては及び腰で、私立大学のほうがやりやすい面がある。私が北海道大学に在籍していたときは学内にどんな設備があるか、どんな技術職員がいるか把握していた。自大学の強みを把握して、出来る限り要件定義を明確化したり、一元化された窓口を作ったりすることが必要ではないか」とコメントしました。

吉田さんから「東工大のTCカレッジで技術人材を学んだ人は研究側かサポート側か?」という質問が及ぶと、江端教授は「基本的にはサポート側。博士号を取った人材が研究者というキャリアを選ばなければというものではなく、研究を引っ張るような立場になれば良い。そのために、技術人材も研究とは何か、何を求めなければを知っていなければいけない」と話しました。

そして、吉田さんは企業側からの依頼について「大学は基礎研究に寄りがちで、企業は応用研究を求めがち。双方のギャップを埋めることが大切。企業側は化学実験をやろうと思うと安全面でのハードルが高いが、大学にはすでに危険物取り扱いの設備がある。あとは安全管理をどうするかの取り決めだけ、信頼関係を含めて構築ができるといい」と話しました。

さらに堀邊教授は共同研究の費用についても言及。「大学の運営費交付金は毎年1%ずつ減少しており10年でトータル10%も削られた結果研究室としては苦しい状況である。一方でこれまで私は1社平均100万円という金額で企業と共同研究を行ってきましたが、学生を1人付ける程度です。この数百万という金額で、良い成果が出る可能性を考えれば非常にコストは安いのでは。もっと企業が共同研究に費用をかけてくれれば大きな研究も可能になる」と述べました。

さらに今ある人材のギャップに関しても「産業界からは人材不足が叫ばれる昨今、人をどう集めて配置するかがポイントになります。任期がある共同研究だとプロジェクトが終われば解散になってしまう。長期的な視点に立って大学がハブになり人を付けて課題をクリアしていくことも重要では」と述べました。

古谷も「アメリカの共同研究費用は平均で1000万円単位を超えている。良い研究チームがあればそこに資金を投じて技術を作っている状況であるので、日本もその状況を目指せれば。産学連携だけでなく、民間企業が共同研究を上手く活用してウィンウィンになる好循環を目指せれば良い。Co-LABO MAKERも企業と研究室のマッチングのために尽力していきたい」と締めて会を終えました。

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