委託

グローバルヘルスケア企業がベンチャーに製品評価を委託。実験結果を論文にしてマーケティングに活用。

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グローバルヘルスケア企業がベンチャーに製品評価を委託。実験結果を論文にしてマーケティングに活用。

introduction

医療機器には高い安全性や有効性が求められるもの。その安全性や有効性もエビデンスが必要になります。手袋内表面のコーティングに保湿成分を含有した手術用ゴム手袋の製造販売をおこなうカーディナルヘルスでは、その「保湿性」を確かめるために独自にCo-LABO MAKERを通じ実験を依頼。有効性も確かめられ論文の共著者としても載る大きな成果を得たそうです。

カーディナルヘルス株式会社のマーケティング本部周術期製品課プロダクトマネージャーの秋吉亨さんに今回のマッチングについて伺いました。聞き手はCo-LABO MAKER代表の古谷です。

グローバルヘルスケア企業が提供する手術用ゴム手袋

古谷:まず、カーディナルヘルスさまの会社概要について教えて下さい。

秋吉:カーディナルヘルスは米国オハイオ州ダブリンに本社を置き、世界中の医療機関や薬局、研究所などに総合的なヘルスケアサービスおよび、医薬品・医療機器・データソリューションを提供しているグローバルヘルスケア企業です。日本においてはThink Safetyをモットーに新生児医療から周術期、在宅医療まで、幅広い製品群とサービスの提供を通じて日本の医療に貢献しています。私は日本の医療機関で用いられる手術用ゴム手袋などのマーケティングを担当しています。当社の手術用ゴム手袋は業界でも高い認知度とシェアを誇っています。

古谷:カーディナルヘルスさまの手術用ゴム手袋はどのような特徴があるのでしょうか。

秋吉:手術用のゴム手袋は高い気密性を保ち、医療従事者と患者間の交差感染を防止することが求められます。JIS規格による細かな規定にしたがって製品はつくられています。

医療従事者は手術などの医療行為を行う前後や手袋を装着する前に入念に手洗いを行います。ところが、頻回の手洗いや長時間の手袋装着が原因で、手荒れが発生してしまうことがあります。医療従事者のかなりの方が手荒れに悩んでいるというデータもあります。

手荒れした状態で、例えばアルコールなどで手指衛生を行うと傷に染みて痛みを感じるため、手指衛生自体がおざなりになる可能性もあります。しっかりと手指衛生が出来なければ、手の皮膚に常在菌が定着しやすくなる現象も起り得ます。医療従事者の手荒れを予防したいというニーズを汲んで、カーディナルヘルスでは手術用手袋の内表面に保湿剤を含有したコーティングを施した製品を開発しました。

医療現場ではエビデンスがより求められる。効果を可視化する実験を

古谷:なるほど。それは患者の健康を守りつつ、医療従事者にもケアを行える画期的な商品ですね。

秋吉:しかし、医療従事者に実際に使ってもらうとしたところ、「被験者の自己評価(官能評価)だけではなく、客観的なエビデンスはありますか?」と尋ねられることも多くありました。とはいえ、大学など研究機関に調査研究依頼をするとなると多大なコストや時間がかかります。製造現場(海外)に相談をするにしても、私自身が、どのような実験をすれば保湿効果を証明できるかが分かっていませんでした。例えば、手術用ゴム手袋の使用前後での手の皮膚の水分蒸散量を図りたいと伝えても、製造現場からは「それで、具体的な試験計画はありますか?」と聞かれてしまい、どうすればよいか分からない状態でした。

そこでたまたま、「保湿」「試験」「ラボ」などの単語でネット検索していた時、運よくCo-LABO MAKERのサイトに辿り着きました。ここでならば自分が試したかった「手袋コーティングの保湿性についてのエビデンスを証明する実験」ができるのではと思い問い合わせを行いました。

古谷:そんな実験ニーズからCo-LABO MAKERにお問い合わせいただいたのですね。

秋吉:はい。結果、株式会社ミルイオンさんをご紹介いただき実験をすることになりました。ミルイオンさんは物質をイオン化してイメージング(可視化)する技術を持っています。この技術を活用し、手袋コーティングの保湿成分が肌に浸透していく様を可視化することが出来るのではないかと考えました。事前の相談では、グリセリンなど各保湿成分がイオン化できるかどうかが実施要件であると伝えられ、「まずは予備実験をやってみよう」という話になりました。そして実際に予備実験を行ったところ各保湿成分のイオン化に成功したので、皮膚を模した人工膜を用いた保湿成分の浸透可視化実験に進むことができました。私自身「どんな実験をすれば保湿効果のエビデンスが得られるか」が未知数かつ、門外漢でしたから、Co-LABO MAKERさんとミルイオンさんに相談してニーズをヒアリングいただき、実験もアレンジしていただいたのは非常に有り難かったですね。

室温条件下における手術用手袋から人工膜(Strat-M)へのグリセロールの分布。浸透開始後18時間ではPES2付近への分布がほとんどだが、36時間ではPES2からポリオレフィンまで分布が見られた。 (Nagano et al., 2024)

古谷:Co-LABO MAKERでは昨今、お客様の「こんな実験が出来ないか」というご相談に対して、その実験が実施できる可能性のある企業・大学を代行して探すメニューを、新しく作り提供しています。日々多くの探索をご依頼いただくため、ニーズを実感しているところです。お客様の手間を減らしながら、最適なパートナー企業・大学とマッチングする。これは各社の研究開発を支援できるサービスなので、改めて可能性を感じます。費用面もかなり頑張って抑えているので、是非みなさまにはお気軽にご相談いただければと思っています。

秋吉:カーディナルヘルスにとっては非常にありがたいサービスでした。どんな実験が必要なのかもわからない状態からスタートしましたが、専門家に相談に乗ってもらい、結果的に実験も無事実施できました。当社の手術用ゴム手袋コーティングに含まれる保湿成分が、人工膜(Strat-M)に浸透していく様を可視化できたことで、科学的推論により有効性を示せるようになったのは良かったです。

またミルイオンさんからご提案をいただき、『手術用手袋に塗布した保湿成分の人工膜への浸透を評価する質量分析イメージング法の開発』(※リンクhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/massspectrometry/13/1/13_A0145/_html/-char/en)という論文を共同執筆し、Mass Spectrometry誌に採択されました。共著なので、私たちもこの実験の結果を引用ではなくプロモーションにも活用できるとなり、幅が広がったと感じています。

古谷:当社としても、実験結果をしっかりと示しつつ、論文の形で発表されて、しかも謝辞に載せていただけたのは初めての事例なので嬉しいです。

この費用感でここまでのサービスが!?

古谷:Co-LABO MAKERにマッチングを依頼するなかで、どのような点が良かったか教えて下さい。

秋吉:正直、「この費用感でここまで対応してくださるのか!?」と驚いています。一般的なマッチングサービスではカウンターパートとなる企業をご紹介いただいたら、そこでサービスとしては終わり、その後の対応に関しては当事者間で行うとなるイメージを持っていました。しかし、Co-LABO MAKERさんは複数回に渡ってMTGを設定いただき、実際の実験を行う過程においても仲介をいただくなどサポートをいただきました。

「当社手術用手袋のコーティング成分が手の保湿に寄与することをエビデンスがある形で示したい」という課題感は持っていたのですが、結果として自身が論文の共著者になるとは思っていませんでしたね。

実験結果は望んでいたものが手に入りました。あとはこのエビデンスをもってプロモーションを行い、全国の医療従事者にこの手袋の良さを知っていただきたいと思っています。その意味では志はまだ半ば。とはいえ、このような論文という形でアウトプットが出ていることは一つ大きな成果だと思っています。

古谷:今後のマーケティングにも期待が持てますね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

引用

Erika Nagano, Kazuki Odake, Toru Akiyoshi, Shuichi Shimma. Development of a Mass Spectrometry Imaging Method to Evaluate the Penetration of Moisturizing Components Coated on Surgical Gloves into Artificial Membranes. Mass Spectrometry 13: 1-A0145, 2024.

https://doi.org/10.5702/massspectrometry.A0145

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