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触媒の研究室で3Dプリンターの実験?地方国立大、群馬大学で起きているイノベーション

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触媒の研究室で3Dプリンターの実験?地方国立大、群馬大学で起きているイノベーション

introduction

「理工学系のコラボレーション」と聞くと大都市圏の大きな企業や大学で起きている印象はないでしょうか。文科省から設備共用化ガイドラインが2022年に発表され、はや2年。地方の国公立大学でもイノベーションの波が押し寄せています。金属3Dプリンティングのスタートアップ企業が、さらなる事業拡大を目指して群馬大学の触媒の研究室で行った実験についてピックアップ。群馬大学理工学部の岩本伸司准教授と3D Architech, Inc. の代表成田海さんに話を聞きました。

触媒の研究室で3Dプリンターの実験?地方国立大、群馬大学で起きているイノベーション

触媒の研究室で金属3Dプリンティングの実験?

ーーまず、受け入れた側の岩本先生、群馬大学理工学部の岩本研究室について、お伺いさせてください。どのような研究を行っているのでしょうか。

岩本:岩本研究室は固体触媒について研究しています。触媒とは化学反応の活性化エネルギーを低下させ、化学反応がより速く進行するようにする物質です。固体触媒は自動車の排気ガスの処理や石油化学のプラントに用いられるもの。研究室では特に汚染物質を除去するための触媒材料について研究をしています。

ーー次に、依頼された成田さんにお聞きします。どのような事業を営むなかで、どのような実験が必要になったのでしょうか。

成田:私は3D Architech, Inc.という高度な金属3Dプリンティングのスタートアップ企業を経営しています。金属3Dプリンティングと聞くと金属粉末に熱を加えて焼き固めるイメージがあるかもしれませんが、化学的なプロセスを用いてミクロ構造や超高解像度の金属製品を3Dプリンティングで提供しています。データセンター向けのヒートシンクやエネルギー変換・貯蔵の部材に使われる材料を開発しています。

今回、3Dプリンティングのプロセスの中で高温になるプロセスがあるのですが、その条件下でシチュエーションを変えると、どこまで耐えられるのかや、どんな反応を得られるのかを確認したかったのです。ただ、事業フェーズの関係で「早く実験をしたい」と思いつつも、私たちが求める条件が特殊で、実験ができる場所が限られていました。そこで、さまざまな手を尽くすなかで過去Co-LABO MAKER経由で実験を行ったことがある弊社メンバーがいたので、Co-LABO MAKERに相談しました。結果、岩本研究室をご紹介頂きました。

岩本:最初にご連絡を頂いたのは2024年の2月末でしたね。そこからオンラインで打ち合わせを行い、実験内容を聞き、当研究室の装置をカメラで見せながら「おそらく出来ると思います」と説明した記憶があります。

ーー「おそらく」というのは岩本先生もやったことのない実験だったのでしょうか。

岩本:ええ。普段の触媒研究での実験は反応装置に窒素化合物など有害成分を含むガスを流し、触媒を用いて低減させるというものです。反応条件を変えることはできるのですが、成田さんから頂いた実験アイデアは、装置の位置を変えたりと、今までの研究のなかでは思いつかなかった内容でした。ただ、装置自体は揃っていましたから、やったことはなくても問題なく実験はできると思いました。

タイトなスケジュールでも実験が可能に、学生にも好影響

ーー成田さんにお伺いします。実際に実験を行うなかでどのような効果が得られたのでしょうか。

成田:大きな手応えを感じています。実際に研究室で自分自身の手で実験をさせてもらい、「触媒」を用いた3Dプリンティングに可能性を感じています。この領域での事業拡大も見えてきました。

スタートアップ企業は研究開発が止まるのは命取りです。実はリスクヘッジも兼ねて友人知人を通じてほかにも複数の研究室に同様の依頼ができないかアプローチをしていました。ただ、その中でも一番成果が出ているのがこの群馬大学岩本研究室との取り組みです。本当にありがたいですね。

スタートアップ企業は人材も資金も設備も、かなり限られたリソースのなかでやりくりしなければなりません。大学の研究室をお借りすることで、新しいアイデアや活用法を思いついて試せるのはプラスに感じています。

ーー岩本先生に聞きます。実験の依頼を受け入れるに当たって不安やリスク等は感じなかったのでしょうか。

岩本:普段の触媒実験とは全く違う分野ですので、もちろん当初は不安でした。これまで受け入れた共同研究は学会などで知り合った企業の方が中心で、全く面識がなかった方がいらっしゃるのは初めてです。しかし、一緒に進めていく内に材料自体が面白いと感じました。それに普段の研究室に外部企業の方が来て熱心に実験をされているのは、学生にもよい影響を与えています。成田さんは学生ともよく話しをされていますよね。

成田:私自身は久しぶりに大学に来て岩本ゼミに入れてもらった感覚ですね(笑)。日々、岩本先生もいらっしゃるので実験内容や評価について話して即フィードバックを頂けるので、また次のアイデアを試せる環境です。国立大学は動きがゆっくりな印象を持っていたのですが、2月末に相談して3月下旬には実験がスタートできました。

岩本:群馬大学側も対応が早かったですね。申請書類など担当の事務の方や機器分析センターの技術職員さんがスピーディに対応してくれました。数か月前知らなかった方がこうやって共同研究に来てくださるのは面白いですね。私自身も3Dプリンティングについては全く無知でしたし、普段の私の研究とは全く違う視点で私が思いつかないことを実験しようとされているので刺激にもなります。「こんな材料で、こんな反応をさせれば……」という点は私も大変に学びになっています。

ーー最後にお二人に今後の展望についてお伺いさせてください。

成田:金属3Dプリンティングを事業として行うなかで、エネルギー変換技術は大きなテーマです。今回、岩本先生の触媒化学研究室で実験をさせてもらうことで、「触媒活用」でも事業拡大が見えてきました。これからも邁進して行きたいです。

岩本:これからは共創の時代で、それぞれの得意なところを活かしてコラボレーションをしていく時代です。文科省からも産学連携や設備共用化のガイドラインが出て、大学の設備についても「興味を持った方は一緒に使っていきましょう」となっているのはいい流れだと思います。

私ども大学では基礎研究を主にやっていますが、共同で役に立つ研究ができればそれは嬉しいこと。これからもお役に立てるものがあれば是非ご一緒させていただきたいです。

ーー本日はどうもありがとうございました。

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