ラボシェアリング

数年がかりの自社ラボ建設か、月数十万円のシェアラボか。堀内硝子の答え

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Introduction

自社でラボ(実験室)を新設すれば数十億円、完成まで数年がかり——。新しい研究開発を始めたくても、最初の一歩を踏み出せない企業は少なくありません。そこで選択肢になるのが「ラボシェアリング」。研究室や実験設備を持つ企業・大学が空き時間に設備を貸し出し、借りる側は自前でラボを持たずに研究開発を始められる仕組みです。株式会社Co-LABO MAKER(コラボメーカー)は、その貸し手と借り手をつなぐマッチングサービスを運営しています。

1910年創業のガラス製品・プラスチック製品の専門メーカー、堀内硝子株式会社は、このサービスを通じて林純薬工業株式会社のラボをシェア利用し、月5日の利用で研究開発を「0から1」へと動かしました。さらに、ラボを貸した側の林純薬工業にも商談につながる動きが生まれています。借りる側・貸す側・つなぐ側の三者に、ラボシェアリングのリアルを伺いました。

出席者

  • 森 直樹 様|堀内硝子株式会社 技術開発部(借りる側=ラボ利用企業)
  • 塩川 仁 様|林純薬工業株式会社 マーケティング部(貸す側=ラボ提供企業)
  • 古谷 優貴|株式会社Co-LABO MAKER 代表取締役(つなぐ側=マッチング運営)

研究開発棟なら多額の初期投資で2〜3年。だから小さく始めた

——まず、借りる側の森さんに伺います。堀内硝子さんが外部のラボを活用することになった経緯を教えてください。

森:技術力を競争優位性に変えていくという課題がありました。それで技術開発部ができて、10年20年先を考えたとき、技術という共通言語でお客さんに語れないと、やっぱり難しいなと。自社工場は持っているんですけど、薬品が使えて装置を置ける場所がなかった。「いきなり投資してラボを作る」というのは厳しいので、まずは小さい形でレンタルラボを利用して、成果が出るかどうかをやってみたかったんです。

古谷:もともとは自社にラボを作る計画だったんですか?

森:新しく研究開発棟みたいなものを作る計画があったらしいんです。ただ、今まで研究開発をやってこなかった会社が、いきなりそこに投資するのかと。だから外部ラボで成果を出して、「こんなことができるんです」とボトムアップで上げていくことにしました。

——費用や時間の面では、どのくらい違うものなのでしょうか?

森:研究開発棟を建てるなら数十億円で2〜3年。部屋を借りて何か設置する場合も、最低契約期間が2年以上からで、立ち上げまで最低半年から1年、金額も最低1千万円、通常2〜3千万円くらいという認識でした。コラボメーカーさん経由ならすぐ始められる。本当に1〜2ヶ月ですからね。トータルコストで圧倒的に安いし早いです。

古谷:共同研究という選択肢もあった気がしますが、やっぱり「自分たちのラボ」が必要だったんですね。

森:事業化を考えると、ある程度自分たちの裁量で進められないと商売になりづらいんです。

——始めるにあたって、社内で懸念はなかったんですか?

森:(以前借りていた別の)東京のラボの頃は、社内での位置づけとしては不思議な感じはあったと思いますよ。「あの人は(社外で)何をしているんだ?」というのが普通の反応で。ただ、その後の立ち上がりや経営陣の決裁はスムーズだったと聞いています。

「この試薬も使ってください」——決め手は設備だけじゃなく人

——コラボメーカーからはいくつかのラボをご提案しましたが、林純薬工業さんに決めた「決め手」はありましたか?

森:まず、我々から条件をお出ししました。ドラフト(局所排気装置)がある、薬品の保管ができる。その条件に見合うラボをセレクションしてくれるのが、コラボメーカーさんの強みだと思います。名古屋など他のご提案もあったんですが、やりたい実験に設備が合わなかった。これは雑談みたいな話ですけど、私は化学メーカーを複数社経験してきていて、ここまでコンパクトでここまで設備が揃っているところは、あまりないかもしれないです。

塩川:貸す側としても、実際に見学に来ていただいて、どういう作業をされるのかを把握してから提供できる。今回、コラボメーカーさんを通じて堀内硝子さんに使っていただいて、「こういう情報・サービスが必要なんだ」という気づきもありました。直接お話しできたことで、林純薬工業としても安心でしたし、お互いすごくしっくりきた、というのが一つの決め手だったと思います。

——実際に使ってみて、イメージが変わった部分はありますか?

森:正直、ここまで柔軟にしていただけるとは思っていなかったです。他のラボさんだと、天秤は1個だけ、スパチュラは3本まで、という制限があるわけです。林純薬工業さんは「この試薬も使ってください」「足りなかったらこれも使っていいですよ」と。設備だけじゃなくて、やっぱり「人」だと思いますね。

古谷:以前は東京のラボを借りられていましたよね。

森:前のラボは、まず薬品を持って行けないんですよ。山手線の電車に薬品を載せて実験器具を持って行くのは無理ですし。コロナ処理機(材料の表面を改質する処理装置)とか、ゴロゴロとキャリーで山手線で運んでいたんです。あれは大変でした。

古谷:そういうのは全然違いますよね。

森:そこが全然違います。林純薬工業さんには最初に「コロナ処理機を置かせてほしい」とお願いしたら「いいですよ」と。それも決め手になったと思います。

——研究開発の進み方には、どんな変化がありましたか?

森:0から1に切り替わりました。今まで分からなかったことが分かる、アウトプットが出てくる。月に5日の利用ですが、それを社内で共有すると、営業の人も経営陣も「ちゃんと進んでいる」と分かる。ラボがなかった時はできなかったんですよね。本社の隅っこで薬品を使うこともできなくて。だから0から1なんです。もしかしたら、この成果をもとに、将来数十億円の研究開発棟が建つのかもしれません。

古谷:数十億の意思決定は大変ですからね。

森:ちょっときついですね。ラボシェアリングなら月何十万円かで始められて、固定費も抱えない。経営的な観点から言っても、撤退がしやすいんです。

貸す側にも成果が。薬液調合サービスの商談が動き出した

——ここからは、ラボを貸す側の塩川さんに伺います。もともと自社用に作ったラボを、外部に提供しようと決めた背景を教えてください。

塩川:2024年にこのラボを作って、自社の試薬の研究開発に使う目的でした。ただ、製品開発のメンバーが片手で数えるほどの人数で、毎日フルに稼働している感じではなかった。コラボメーカーさんからご紹介いただいて、せっかくなら遊休時間を有効活用できないかと考えたのが一つです。もう一つ、これが本当の目的なんですが、レンタルでお金を稼ぎたいというわけではなくて——もちろんある程度の収益は見込みますが——研究者同士の交流があって、新しい価値の創出につながる、というところが目的です。

——その狙いどおりの動きは、もうあったのでしょうか?

塩川:実際、堀内硝子さんとの話が進みつつあるんです。弊社は薬液を混ぜて濃度調整してお客様に提供する「調製・調液サービス」をやっているんですが、森さんの開発は将来、研究から量産のフェーズに移っていく。その調合のところで弊社のサービスを活かせるんじゃないかとご提案しました。資料をお渡しして社内でご案内いただき、「使ってもいいかな」というお話ももらっています。ビジネスチャンスを作るきっかけになったかなと思います。

森:開発がうまくいったら、実際そうなると思うんです。ただ、調合系のマッチングをやられている企業さんも結構あるんですけど、私の前職の経験でも、中小企業の小ロットに対しては結構冷たいんですよ。「継続的にいつ使うんですか」と聞かれたり。

塩川:弊社の場合、「500ミリリットル1本だけください」と言われても、それを断ることはないんです。多少割高になってしまうと思いますが、ご相談いただければ。

古谷:ビジネスとしてもっと発展していくんじゃないですか。

塩川:今月から再来月くらいには、関係者を集めてミーティングをしようという話もしています。楽しみにしています。

古谷:本当に教科書的なイノベーションがこのラボで起きているんだなと強く感じました。ちゃんと混じり合って何かが起こるって、意外とないですよね。

——外部の方を受け入れるとなると、事故や機器の破損の心配もあります。コラボメーカーでは利用に伴う事故・破損に備えた保険をご用意していますが、貸す側にとってどんな存在でしたか?

塩川:そうした事故が絶対にないとは言えないですから。何かをひっくり返して壊しました、となれば修理が必要になる。修理代は、利用者に請求せざるを得ない。そういった場合に保険の適用があるのは、貸す側として安心につながります。それがあったからこそ、いいタイミングで受け入れの意思決定ができました。

「一社ではできないものを作る」——カギは人と人との連鎖

——ここからは、つなぐ側の古谷さんに伺います。そもそも、なぜこの事業をやっているのでしょうか?

古谷:もともと学生の頃は無機材料系の研究をしていて、メーカーで結晶成長のラインを立ち上げる中で、使われずに余っている「もったいない装置」がたくさんあることに気づいたんです。壊れて使えないわけではなく、「いまは使うタイミングではない」「担当者が異動していなくなった」といった理由で眠っているだけなんです。余っているリソースを摩擦少なく使えるようにしていけば、研究開発は本当に良くなると思ってやっています。

森:経営学でそういう話がありますよね。「弱い紐帯(つながり)」のやつ。

古谷:弱いつながりをつなぐところにイノベーションが起きやすい、という話ですね。2017年の創業からトータルで5000件ぐらいのご依頼をいただいていて、「これはここでうまくつながるんじゃない?」というのが、データとして頭の中にもあります。

——ラボシェアリングはどんな企業に向いているサービスでしょうか?

古谷:使う側は、ほぼあらゆる企業に当てはまると思っています。実際に中小企業も、ベンチャーも、大企業も使っている。特にアーリーステージでは、自前で環境を持とうとするとハードルが高くて踏み出しづらいし、大学との共同研究は別の引っかかりがある。ラボシェアリングはそこを早く・安く・自由度高くできます。提供する側で言うと、林純薬工業さんのように素敵なラボを作りつつ、頻繁には使っていないとき、収益だけじゃなくて新たな機会が生まれる。自分たちにとって当たり前の設備が、実はユーザーにとっては貴重だったりするので、どんどんシェアしながら活用していけるといい。さらに言うと大学もですね。科研費(国の研究助成金)は中央値が200万円ぐらいの世界ですから、大学の方々にもぜひ気づいて使っていただけるといいなと思います。

——最後に、ラボシェアリングの可能性をどう感じられたか、お二方から伺えますか?

森:やっぱり「人と人との交流」だと思うんですよね。連鎖がカギ。塩川さんとお互いの話ができたのも良かったですし、初めてお会いするところから何かが生まれる。ただ立ち話をするよりも、実際に物がある中で話すというのは中身の濃い話ができる。一社ではできないものを作る——そういうものがコアになってくるのかなという気がします。

塩川:今、森さんがおっしゃったことに近いんですが、私も「人」かなと思います。受け入れた方の共通点は「ちゃんと話し合いができる人」だということです。そこはコラボメーカーさんがちゃんと管理して、「この方なら大丈夫です」と言っていただけるので、安心してお任せできています。交流して発展につなげたいという目標が、本当に最初のお客さんで実現できそうになった。いい例ができたと思います。

——本日はありがとうございました。

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